ルヴァン種を使う自家製酵母パン作りは失敗しない|by小澤ちひろさん

2018/07/02

ルヴァン種を使う自家製酵母パン作りは失敗しない|by小澤ちひろさん

小田原市鴨宮にあるおざわちひろさんが営む、オーガニックカフェ併設の天然酵母パンの人気店「ポタジェララ」。町の小さなベーカリーには、秘密の自家製酵母で焼く、食べるたびに元気が出るようなパンが並んでいた。身体にやさしい、安心安全なパンに今日もたくさんの人が買いに来る。そんな自家製酵母のパンを自宅でも作りたい! そんなパン好きな人のために酵母の作り方からパンのレシピも教えていただいた。丁寧な暮らし、丁寧な生活。そんな休日がきっと過ごしてみたくなる。

天然酵母とは

天然酵母とは、果物・穀物・葉や花などに存在している酵母菌を自然培養したもののことを言う。添加物は一切入っていないので、取り扱いには注意が必要だが、安全でおいしく食べることができるのでおすすめである。イーストも天然酵母も、どちらも自然の原料から採取した酵母だが、大きな違いがある。また、イーストは、製造の過程で強い酵母だけを選び、それ以外の発酵生産物などを排除して培養するが、それに対して、天然酵母は、自然培養過程で混在している微生物(乳酸菌・酢酸菌など)のおかげで、独特の風味と個性を出すのだ。また、天然酵母はその原料も多種類なので、使う原料によってパンの個性や風味が変わってくるのが特徴である。

ozawasan_0046自家製レーズン酵母。発酵させて4日が経過したところで、
瓶を開けるとシュワシュワと泡立ってくる。
香りもふわりと甘く、今が最高の状態

atari_ozawasan_0059季節の果物は、自家製酵母に最高の材料。
糖度が高いフルーツを選べば、失敗も少ない

自然の恵みいっぱいの身体にやさしいパン

パン屋さんの仕事は、朝が早い。自家製酵母を使う場合はとくに、酵母を起こしたり、生地の発酵具合をよく確かめなければならず、手間も多くなる。けれども、ポタジェララの小澤さんは、いつでも元気いっぱい。小さなお店の中は、彼女の明るい力が満ちているようだ。

「夏場は、発酵が早いから、夜中の2〜3時にパン生地を仕込んで、6〜7時に起きて焼いていますね」とにっこり。

その分、早く寝て、お昼寝もしていますからと笑うが、パンの仕込みから焼き上げるまで、すべてひとりでこなすその活力の源は、毎日の食生活にあるのかもしれない。そもそも小澤さんは、若いころから自然療法で知られる、東城百合子さんに師事していた。食べること、そして健康について研鑽を積み、食生活でも玄米菜食を続けるようになった。やがて、食を仕事にと決意し、三島で天然酵母のパン屋を営んでいた父親に弟子入りし、その後独立。小田原市鴨宮で、オーガニックカフェと天然酵母のパンの店をオープンさせた。

”ルヴァン種”でパンを焼く

小澤さんがパンづくりに使っているのは、レーズンを主体に、秘密の材料を合わせた自家製の〝ララ酵母〞と、あこ有機培養酵母のストロングタイプ種。

「ハード系のパンにはララ酵母を、食パンなど、ふわっとした食感に仕上げたいパンにはあこ酵母を使っています」
また、自家製酵母の発酵力を安定させるため、〝ルヴァン種〞でパンを焼く。

「これはプロのパン屋のやり方。手間はかかりますが失敗しないと思います」
話しながらも、見惚れるほどの手際で、寝かせていた生地を分割し、丸め、成形していく小澤さん。時には、生地を軽く押して、発酵具合を確かめる。やがて、ブザーの音が鳴ると、焼き立てのカラフルなプチパンが姿を現す。

酵母液をはかっているとこルヴァン種をつくるために、酵母液をはかっているところ

「これは、このまま食べてもいいし、横半分に切れ目を入れて、野菜やジャムを挟んでサンドイッチにしても美味しいの!」

%e3%82%ad%e3%83%aa%e3%83%8c%e3%82%ad自然の素材だけでカラフルに焼き上げるプチパンは、ファンも多いポタジェララ名物。
よもぎ、紅こうじ、とうもろこしの他、紫いも、かぼちゃなどが登場する。
もちもちの食感で、そのままでも、横半分にカットしてサンドイッチにしても美味

続いて、カンパーニュ。
「今日はどれも、元気すぎるくらいふくらんだね!」嬉しそうにパンを取り出す姿に、愛情も手間ひまもかけたパンだからこそ、毎日食べると元気になる美味しさがあるのだと実感した。

ピザや蒸しパンにアレンジ発酵させすぎ、ダレた生地になってしまったら、ピザや蒸しパンにアレンジ。

酵母づくりの失敗ポイント

酵母を手作りする際に失敗しがちな点をあらかじめ抑えておけば、
いつでも自宅で簡単に酵母をつくることができ、安心安全なパンを楽しむことができます。

カビが生えないように瓶は清潔に!カビが生えないように瓶は清潔に失敗で多いのがカビ。カビの生えた酵母は、表面を取り除いても、全体的にカビ臭く、
いい状態でないことが多い。瓶は煮沸消毒し、酵母を扱う手も清潔に

高温に注意し風通しのいい場所に
高温に注意し風通しのいい場所に酵母を育てる時は、28 ~ 30℃で直射日光の当たらない、風通しのいい場所を選ぶ。
温度が高すぎると腐敗してしまうことも。温度が低すぎれば発酵しない

自家製酵母を自宅でも! 基本のルヴァン種のつくり方

天然酵母は培養する原料によって様々な種類に分類される。パン作りの際は、作りたいパンによって酵母を変えるといいのだけれど、自家製酵母の場合、発酵力が不足して、ふくらまない……ということもしばしば。その失敗を避けるためにも、小澤さんと同じく、「ルヴァン種」を使うパンづくりがおすすめ。ルヴァン種 ルヴァン(仏語:levain)はフランス語で“発酵種”という意味。 主に小麦粉、ライ麦粉、水を合わせて作った発酵種で、全粒粉に存在する菌を起こして作るのが「ルヴァン種」。乳酸菌と酵母を生育させて作られるパン種のこと。フランスでは自然界に存在する野生酵母を培養した種(ルヴァン種)によって作られる伝統的な製法によるパンを総称したりもする。酸味、甘み、香りのバランスが絶妙なパンが出来上がる。

完成した酵母完成した酵母は、ガーゼで絞り、酵母液のみの状態で冷蔵保存する。
2週間ほど発酵力が持続する。

ルヴァン種の作り方

【 材料 】作りやすい分量

[ 1 回目 ]
自家製酵母液… 6 0 ㎖
国産中力粉… 1 2 0 g
モルト… 1 ~ 2 ㎖

[ 2 回目 ]
1 回目の生地… 2 4 0 g
国産中力粉… 4 8 0 g
水… 2 4 0 ㎖
モルト… 1 ~ 2 ㎖

【 作り方 】
1
1回目の仕込みをする。材料をすべて合わせ、耳たぶくらいの軟らかさを目安に、なめらかになるまでよく練る。丸めてボウルに入れ、ラップをかけ、約30℃の場所で4 ~ 5 時間、生地が約3 倍くらいにふくらむまで置く(一次発酵)。一次発酵が終わったら、生地をラップに包み、冷蔵庫で1日寝かせる。

2
2 回目の仕込みをする。1 回目で寝かせた生地と、粉、水をすべて合わせ、同様によく練り、一次発酵させる。終わったら、再び冷蔵庫で1日寝かせる。

3
2回目が終わったら、ルヴァン種として使用できる。※この行程は、4回ほど繰り返すと、強いルヴァン種になる。継ぎ足し続ければ、ずっと使い続けることができる。継ぎ足さない場合でも、冷蔵庫で1週間ほど保存できる。

おすすめ! 小澤さんの自家製酵母パンレシピ

自家製酵母ができたら、いよいよパンを作ってみましょう! おすすめのパンレシピを紹介します。

ジューシーで食べ応え抜群!
なす味噌のお焼き風パンなす味噌のお焼き風パン【 材料 】8 個分

[ 生地 ]
自家製酵母のルヴァン種… 1 2 0 g
国産中力粉… 3 0 0 g
塩… 6 g
砂糖… 3 g
水… 1 5 0 ㎖
[ 具材 ]
ナス… 2 個
玉ねぎ… 1/2 個
ごま油… 大さじ1
味噌… 大さじ1
みりん… 大さじ1

==========
【 作り方 】
1
生地の材料をすべて合わせ、耳たぶくらいの軟らかさを目安に、なめらかになるまでよく練る。丸めてボウルに入れ、ラップをかけ、約30℃の場所で4~5時間、生地が約3倍くらいにふくらむまで置く(一次発酵)。

2
具材を準備する。ナスは縦半分に切り、8㎜ほどの半月切りにする。玉ねぎは8㎜ほどの角切りにする。フライパンにごま油をひき、ナス、玉ねぎ、味噌、みりんを入れ、よく炒めて冷ましておく。

3
一次発酵が終わった生地を8 分割(1 個70g)にし、丸めてから伸ばす。それぞれ具を包んで丸め、少し平たいお焼きの形にする。お焼きのサイズに合わせてクッキングシートを8枚カットする。

4
熱湯を入れた鍋の上に蒸し器をのせ(火は付けない)、クッキングシートを敷き、お焼きをのせ、30 ~ 40 分間、生地が1.5 倍にふくらむまで置く(最終発酵)。

5
最終発酵が終わったら、そのまま鍋に火を付け(中火)、10分蒸らしてでき上がり。
※お焼きを蒸らした後、ごま油をひいたフライパンで両面をよく焼き、香ばしくしても美味しい!

フルーツ酵母

リンゴやイチゴ、バナナやオレンジなど、酵母はさまざまなフルーツから作ることができるのです。生のフルーツだけではなくドライフルーツでも可能なので手軽に作るのも魅力のひとつ。季節や産地の関係で手に入りにくいフルーツは、ドライのものを探してみると選択肢が広がる◎ また、普通は捨ててしまう皮や芯の部分もそのまま使えるので、エコに最適の使い方としておすすめです。

もも
もも

白桃、桜桃のどちらでもOK。ももは皮ごと4つほどに切り、種も一緒に瓶に入れて発酵。ぶどう、りんご、ももなど、どのフルーツの酵母でも、レーズン酵母と同様に、ルヴァン種を起こして使う

 

 

りんご

 

りんご

りんごは丸ごと使うなら、皮ごとすりおろし、芯も一緒に瓶の中に入れて発酵させる。芯の部分だけでも酵母を起こすことができ、小澤さんは冬に焼きりんごをつくり、残った芯で酵母を起こしている

 

ぶどう

 

ぶどう

糖度の高いぶどうは、自家製酵母に向くフルーツの代表格。房から実を外し、皮ごと瓶に入れ発酵させる。巨峰など大粒のもの、デラウェアなど小粒のもの、緑色のマスカット系のどれを使ってもOK

 

 

 

 

おざわちひろ

【PROFILE】

おざわちひろ
小田原市鴨宮にある、オーガニックカフェ併設の天然酵母パンの店『ポタジェララ』のオーナー。身体にやさしく、毎日食べても飽きないパンを焼く。自然療法の東城百合子氏に師事。カフェでは、マクロビオティック料理も。自然料理教室も開催している

おうちでパン作りを楽しむ人におすすめしたい天然酵母。ドライイーストではなく、酵母から手作りすることで安心安全なパンが出来上がります。天然酵母パンの楽しみは、酵母の材料によってパンの風味が異なること。市販のドライイーストを使ったパンよりも、天然酵母を使って焼いたパンのほうがコクと深みのある味わいになり、焼いた翌日になっても硬くなりにくいという嬉しい効果も。酵母の材料だけではなく、作る環境や作り手によってできあがる酵母の表情はさまざまなので、オリジナル酵母を作る楽しみは、試すほどに広がっていきます。

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