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エディター・白澤貴子さんが一生そばに置いておきたい服

2018/11/21

エディター・白澤貴子さんが一生そばに置いておきたい服

凛としてエレガントな立ち姿が印象的な彼女は、数々の媒体で活躍しているエディターの白澤貴子さん。彼女の優雅な所作を見ていると、それがその場限りなのではなく、長年続けてきたことだということを物語る瞬間がある。洋服に手をかけることは、自身の新たな概念を生むことと語る彼女。モノを大切に扱えば、それらしい佇まいが生まれてくるという彼女のマイストーリー服に注目したい。

 

年齢を重ねても新しい世界を広げるコツ

エルメスの本

 エルメスをより深く知るために読んだ一冊

 

膝下20㎝程のたおやかなコートの下には、ワンピースを着ることが多いそう。「ELINのエコスウェードのワンピースのクラシカルな雰囲気が好き」と語る彼女は、パリのヴィンテージショップで出合った「エルメス」のカシミアのコートを長年大切にしている。ボタンも金具も何もない、1枚仕立てのシンプルなコート。彼女が心酔する理由は、なにも〝エルメスだから〞ではない。

「カシミアコートの正しい扱い方を、この一着を通して覚えました。ブラシをかけると、驚くほど艶が出るんです。物を丁寧に扱えば、こういう喜びもあるのだとこのコートが教えてくれた。〝手をかけた分だけ服が育つ〞ことは、大人になって巡り合った概念」。
年齢を重ねても、こうして新しい世界が広がることが、白澤さんは嬉しそう。

ブラシ

「 ブラシの平野」のカシミア専用ブラシ。ブラシをかける度に上質な艶が蘇る。

「とはいえ、〝一生着続けるもの〞なんて、ないとも思うんです」と、ハッとするひと言。
「このコートに、毎年袖を通すかはわかりません。けれど〝一生そばに置いておきたいもの〞であることは確信しています。自分の新たな信念を、生んでくれたものだから」
 
一着のコートが、白澤さんの洋服への向き合い方を変えた。白澤さんの〝大切なもの〞にまつわる物語のルーツは家族。祖母に憧れて集め始めたイヤリング、9歳になる息子の節目の行事や毎年クリスマスに身につけてきたブローチ、13年前に夫から贈られたハイヒール。どれも長い歴史があるにも関わらず、彼女が語る当時の情景や想いがとても鮮明であることに驚く。

「私にとって、ものは〝生き物〞。あの時一緒に立ち会ってくれたなあとか、救い出してくれたなあとか。共に色々な経験をするものだと思っています」。こんな風に一緒に生きているのだから、刻々と記憶に刻まれ、物語は厚みを増していく。
 
結局ハイヒールを履いたのは、指輪を買う時ではなく、婚姻届を出す時だった。
「足を入れたのはその一度きり。デザイン的なことではなく、あまりにも特別すぎて履くタイミングを失ってしまって。けれど今年、私の誕生日を家族3人パリで過ごしたのですが、その時にトランクに入れて連れて行きました。でも結局、履かなかったのです。その日の服には合わなかったの……(笑)」と白澤さんは笑う。
「でも、また必ず機会が巡ってくるはず。主人の想いも含めて、とても大切に箱にしまっています」
 
ご主人に似たのか、息子さんもとても紳士的。
「彼はワンピースが好きなのですが、新しいワンピースを着ると、〝ママ、素敵だね!〞と必ず言ってくれます。最近お出かけする時には、2枚の中から選んでもらう習慣が。決して口うるさい男になってほしいわけではないのですが(笑)、彼が自信を持って選ぶものを尊重したいという想いです。何年も袖を通していないワンピースを選んでくれたりもするので、私に色々な気づきをくれています」
 
ヴィンテージのワンピースを集め始めたのは、ご主人の勧めがきっかけだった。
けれど今、このたくさんのワンピースに、息子さんの想いも乗せている。

花柄今や120枚にも及ぶヴィンテージワンピース。花柄が半分以上を占める

一生大事にしたい大切なモノ

カレ
Item-1
CARRÉS
Dipdyeを施した母譲りのカレ

「Hermès」からのお誘いで“ディップダイ(後染め)”したカレ。「父が結婚5年目に母へ贈った1枚を染めていただきました。歳を重ねた今の母には少々若々しくなったため、譲り受けたもの。私がそうだったように、息子にとっても、これが“母としての私”の目印になれば嬉しいですね」

イヤリング
Item-2
VINTAGE EARRINGS
祖母がお手本のイヤリング

白澤さんが、大ぶりの揺れないイヤリングに興味を持ったのは、祖母の影響。“90 歳を超えた今でも、イヤリングを素敵につける人”なのだそう。どんなに普段着の日もそれは変わらない。「1年程前から私にもようやく似合うようになったのを実感しました。髪をショートヘアにしたことや、年齢を重ねての顔つきの変化もあるのでしょうね」と白澤さん。お気に入りは黒いストーンをあしらったもの。

ブローチ
Item-3
MARUKAJITTO
BROOCH
大切な日に身につけるブローチ

「ブローチは、母親になり初めて目がいくようになったもの。息子の入園式や入学式、家族で過ごすクリスマス……これまでの大切な節目に必ずつけているのがこのマルカジットのブローチです。鉱物の黒い輝きが密かな存在感を放つブローチで、胸元に差すだけでスーツやコートをシックに見せてくれます」。必ずお目当てのものが見つかるとは限らないので、最も“運命を感じる”アイテムなのだとか。

パンプス
Item-4
HIGH HEEL PUMPS
夫から贈られたパンプス

結婚前のご主人との海外旅行で贈られた「ドルチェ&ガッバーナ」のパンプス。実は一度しか履いていないそう。でもこの靴が、人生を一緒に歩むきっかけ、プロポーズに繋がる一足だった。「ひと目惚れしたものの、20代の私には似合わない気がして。1日考えようと躊躇した靴を主人が買ってきてくれていました。“この靴を履いて指輪を買いに行こう”と。漫画みたいな本当のお話です(笑)」

白澤貴子さん

【Profile】
白澤貴子さん

10 代から雑誌の制作に携わり、多くの媒体で活躍するエディター。コラム執筆や広告ディレクションなども手がける。パリ在住時に培った感性やセンスを元に発信される情報は、SNSでも注目されている。小学生の息子をもつ母でもある。

白澤さんのエピソードにはいつだって家族の存在があった。家族と一緒に経験したあの日のことをモノと一緒に思い出す。こうだったなとかああだったなとモノと共にいろんな経験をして自分自身が成長していく。そう考えるだけで、今日は何を着ようか何を身に着けようか、何をプレゼントしようかと生活にわくわく感が生まれてくる。するとどうだろう、自然と洋服に手をかけたくなって、白澤さんのような美しい佇まいになっていくのかもしれない。

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