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「おうちでごはんを食べましょう」世界で一番等身大のサイトのひみつ【前編】

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2020/04/07

「おうちでごはんを食べましょう」世界で一番等身大のサイトのひみつ【前編】

伊藤まさこさん、たくまたまえさん、中山智恵さん、かえる食堂の松本朱希子さん、中西なちおさん…食のプロフェッショナルたちのプライベートキッチンで、料理を習い、レシピや教わったことを紹介する人気レシピサイト「FOR LIFE KITCHEN」。

 

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サイトを運営しているのは、4歳のお子さんを育てる普通の夫婦。妻のあずみさんは、結婚するまでほとんどキッチンに立ったことがなかったという、料理ビギナーでした。

 

今回は「FOR LIFE KITCHEN わたしだけの料理教室」の本の発売を記念して、サイトを運営する引田夫妻と、暮らし上手の姉妹本「ei cooking」編集長の河崎さんの対談をお届けします。レシピサイト誕生のキッカケや、徹底的に読者目線にこだわるFOR LIFE KITCHENのサイト作りの裏側などをじっくりと伺いました!

 

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・引田あずみさん(左)
1988年東京下町生まれ。WEB広告の会社で働き、出産を機に退社。現在4歳の娘を育てる主婦。結婚するまで料理経験ゼロだったが、FOR LIFE KITCHENを始め、料理の腕前も成長中!

 

・引田大さん(右)
デザイナー。幼少期を海外で過ごしたことをきっかけに2001年サンフランシスコの美術大学に留学、2008年に帰国後、都内のグラフィックデザイン事務所(H.D.O.)にて現在勤務中。FOR LIFE KITCHENの編集長。

 

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・ei cooking編集長 河崎秀明さん
出版社編集、編集長を経て、2012年エイ出版社入社。ei cooking編集部にて料理ムックの『ei cooking』などの編集に携わる。食の分野での編集経験が長く、かかわった料理本は数百冊を超える。料理は食べるのも作るのも好き。

 

結婚するまでキッチンに立ったことがなかった主婦が、レシピサイトを運営!?「FOR LIFE KITCHEN」が生まれたきっかけ

 

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河崎さん:FOR LIFE KITCHENはあずみさんがプロに料理を習いに行き、教わったことを紹介しているサイトですが、料理初心者の目線のレシピサイトは今まで中々なかったからおもしろいですよね。

 

新著の中でも出てきますが、お二人がレシピサイトを始めることになったきっかけは何ですか?

 

あずみさん:きっかけは、結婚して子どもが生まれるタイミングで夫(大さん)と義母が「これからの食」「子どもの未来のためにできることを考えなきゃね」と話していて。突然、夫から「レシピサイトを始めよう!」と切り出されました。当時、私は子どもが生まれたばかりで、それどころじゃないのにびっくり(笑)。

 

少し家庭の話をさせていただくと、私が嫁いだ家(夫の両親)は吉祥寺でギャラリーを開いていて、自分たちがいいなと思う人に声をかけて企画を考えて展覧会をしています。そのまわりには、キラキラしたさまざまな素敵な人がいて…。東京の下町で生まれ育って、今まで暮らし系のカルチャーに接したことがなかった私は、まったく知らない世界に飛び込んだ感じでした。

 

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あずみさん:レシピサイトは、そのギャラリーまわりのスペシャリストたちに、料理やお菓子を習いに行き、おすそわけとしてレシピや習ったことを紹介するというものでした。

 

「おもしろそうだし、子どもの食育のためにも良さそう!」と思ったものの、子どもも生まれたばかり、はじめての子育てでいっぱいいっぱい。でも夫と義母の2人で話はどんどん進んでいき…(笑)

 

大さん:あずみを置いてけぼりにしてしまったのは、悪かったと思っています(笑)

 

あずみさん:取材経験もなく、料理も初心者の私が、本を何冊も出しているような先生方に料理を習いに行くなんて…と、とても恐縮でした。でもどの先生方も快く引き受けてくださって。

 

FOR LIFE KITCHENを通して、ちょっとした手間と知恵でこんなにもおいしくなるんだ!と料理のたのしさを知ることができました。

サイトをはじめて4年ですが、今では友人のリクエストに答えて料理を作り、おもてなしすることもありますよ。

 

「ずっとキッチンにいる母の姿が印象的だった」反抗期で親の手伝いもしなかった実家時代

 

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河崎さん:あずみさんは反抗期が長くて、結婚するまでほとんど料理をしたことがなかったって聞きましたが、本当ですか?(笑)

 

あずみさん:本当です(笑)。両親は共働きで一人っ子の家庭でした。中3から自営業で親が家にいる時間が長くなって、親の干渉がうるさく感じてしまい、高校生になってからはほとんど家でご飯を食べなかったんです。だから台所仕事も手伝ったことがなくて…。

 

でも、母は料理が大好きで、ずっとキッチンに立っている印象でした。大皿料理がばーんっとテーブルに並んで、食べきれないくらいの量を作るんです(笑)揚げ物が好きで、母の作る春巻きはすごくおいしいんです。一緒に住んでいる時は気がつきませんでしたが。

 

高校を卒業してからも、バイトや学校で忙しかったので、家で自分で料理を作ることもありませんでしたね。毎日のように飲み歩いたり外食したり。食べることへの興味はありましたね。

 

河崎さん:なるほど〜!なかなか家ではご飯を食べなかったわけだけれど、料理好きのお母さんの影響は、少なからず受けているのかもしれないですね。

大さんは学生時代、料理はしていたんですか?

 

大さん:高校生のころ、中華料理屋のバイトで少し料理をしていました。あとは、アメリカ留学していたころに母親が料理本を送ってくれましたね。有元葉子さんとかコウケンテツさんの本とか。

 

河崎さん:実際にお母さん自身が使って良かった本を送ってくれたんですね。

 

大さん:その本をパラパラ見ながら、料理を作ってました。料理を作ることは嫌いじゃないし、苦にならないですね。

 

デザインと料理は似ている気がします(大さんはデザイナー)。
デザインも料理も、分解すると、「素材を手際よく組み立て、プロセスを考えて完成させる」。デザイナーはプロセスを大事にするし、アイデアも大事。デザインと料理が繋がる部分があると感じています。だからデザイナーは料理が上手な人も多いと思いますよ!

 

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レストランのような料理が出てくる夫の実家と、大皿料理がどーんと出てくる私の実家

 

河崎さん:その後、あずみさんはWEB広告の会社で、大さんはデザイン会社で働いているときに出会って結婚されますよね。大さんのご実家に行ってびっくりしたことがあったんですよね?

 

あずみさん:そうなんですよ。結婚前に夫の実家へ挨拶に行くとき、手土産に悩んで手に取った「手土産・定番100選」みたいなタイトルの本を読んでいたら、義母が出ていて…。こんな人に私はいったい何を買えばいいんだ、みたいな(笑)

 

河崎さん:すごいプレッシャーですね(笑)

 

あずみさん:はじめての挨拶のときは、緊張でほとんど何も話せなかったですね。ウェルカムドリンクに桜シロップのソーダ割りが出てきて、料理も、義父が特別な日にだけ作ってくれるミネストローネをはじめ、個々の器に盛り付けられた料理。ここはレストラン!?って(笑)。私の育ってきた家庭のご飯とは違っていて、夫の実家は衝撃的なことがたくさんでした。

 

大さん:両家で味付けも全然違うかもね!

 

あずみさん:そうだね。うちは市販のドレッシングが冷蔵庫に何種類かあるけれど、夫の実家では、ピンクグレープフルーツとクレソンのサラダを、レモンと塩とオリーブオイルだけで食べるんだ!?っていう(笑)

 

河崎さん:このエピソードは何度聞いてもおもしろいですね!(笑)大さんはあずみさんのご家庭に行ってみて、どうでしたか?

 

大さん:おいしい料理が大皿にいっぱい、どーんっと!どんどん食べてね〜!って何品も出てくるスタイルで嬉しかったです。実家だと「腹八分目までね」っていう感じでしたから、ある意味異文化だったかも。

 

河崎さん:でも、どちらのご家庭も一緒においしいものを食べよう、食べることを大切にしているという共通の部分もありますね。それぞれ、形は違いますが、ホスピタリティーの気持ちは同じですね。

そして、子どもが生まれることになり「子どもが生まれて、未来のためにも何かできることをしよう!」とFOR LIFE KITCHENを始めることになるんですよね。

 

おいしいは千差万別!“素人目線”で等身大な、FOR LIFE KITCHENの魅力

 

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河崎さん:FOR LIFE KITCHENの撮影を見させてもらったときも、ベタ付きで撮影しているのが印象的でした。普通の料理の撮影だと、ラフを書いて、手順写真も事前に何を撮るか決めて撮影をするけれど、FOR LIFE KITCHENは、カメラマンがおいしそう!と思ったシーンを自由に撮影していますよね。

 

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大さん:そうですね。最初、たまちゃん(たくまたまえさん)や、ちえちゃん(中山智恵さん)を取材したときも、「絵コンテないの?」って驚かれました(笑)。

 

料理家さんには好きなペースで作ってもらい、こちらも自由に追いかけて撮影をしていますね。

 

河崎さん:カメラマンさんの自由な視点にまかせるのは面白いですよね。

 

大さん:決まった構図でバチッと決めて撮る写真もおいしそうで綺麗だけれど、おいしいの感じ方は千差万別。いろんな人が、いろんな角度でおいしそうと感じるものが作りたかったんです。
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河崎さん:レシピを伝えるメディアには動画もあるし、ユーザー参加型のレシピサイトもあるけれど、そのどれとも違いますよね。レシピだけじゃなくて、料理のリアルなおいしさや楽しさをしっかり伝えられているサイトだと思います。

 

レシピブックは本来、料理を作る人の視点に立って作るべきものだと思うけれど、気が付いたら制作側の視点になってることも。でも、FOR LIFE KITCHENには純粋に「おいしい料理が知りたい」という“素人の視点”がある。

 

大さん:すごく等身大ですよね。

 

河崎さん:本の編集者も、読者の方に「おいしい」を伝えたいと思ってやっているけれど、本作りのための本になっていることがあります。

 

たとえば、今はこの食材が注目されているから取り入れなければとか。ページのスペースが空いているから、ここには追加でレシピを入れて…など読者の視点から離れてしまうことがあるんです。

 

だからFOR LIFE KITCHENのような、自分が習って、作っておいしかったレシピをそのまま伝えたいという思いでやっているサイトって、意外とないかもしれないですよね。サイトをやっている本人等が、くり返し作っているのも素敵!それだけおいしいんだなって。

 

あずみさん:そうなんですよ。取材で習った料理を早く試したくて、私もカメラマンさんも、その日のうちにすぐ作ったりすることもあります(笑)。

 

サイトに載っているレシピは、くり返し何度も作っている、うちの定番料理たちです。FOR LIFE KITCHENのサイトや本を見た人が、それぞれのおいしいを見つけてもらえたら嬉しいですね。

 

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――――こんなときだからこそ、おうちで食べるご飯の時間を大切にしたいもの。
おうち時間は、FOR LIFE KITCHENを見て、おいしいご飯を作ってみませんか?

 

後半では、FOR LIFE KITCHENの本作りの裏側や本の見どころ、あずみさん愛用の調理グッズなどをご紹介します!

 

ウェブサイト FOR LIFE KITCHEN

 

ムック本 「FOR LIFE KITCHEN わたしだけの料理教室」

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後半につづく>>「わたしだけの料理教室」をおすそわけ!人気レシピサイトFOR LIFE KITCHENが本になりました【後編】

 

 

人物写真:深澤慎平
料理写真:濱津和貴/山本康平

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